課題演習E
地層や岩石・鉱物には、固体地球そのものについてはもちろんのこと、これに接する大気・海洋・生物圏の45億年にわたる挙動についての情報が含まれている。Eでは、これらの情報を読み出すための基礎的な演習・実習を行う。前期には、野外での調査方法の演習・実習を行う。後期には、主に室内での研究方法についての入門的演習・実習を行う。地質科学に関連した分野を将来専攻する場合にはこの演習と地質調査法を履修しておくことが望ましい。
課題演習E(前期)
清澄山実習でのひととき
地質調査法、前期の課題演習Eでは何をやるの?
地質学の大目的は過去に地球上、あるいは地球内部でどんなことが起きたのか、それがなぜ起きたのかを解読すること、あるいはそのための手法をつくることにある。
それを世界で最初に成し遂げた者こそ、学問の分野でのヒーローになれるのである。
が、その前にしっかりとした地質学の基礎を身につける必要がある。
地質学で最も基礎となるのは、野外からの情報収集である。
前期の地質調査法・課題演習Eでは野外実習、室内実習を通じて、地質調査の基礎を学ぶ。
実習の構成
実習は室内作業と野外実習とで行う。
室内実習(あるいは校内での実習)は 主なものを挙げると、
- 簡易測量の方法
- 野外で取ってきたデータの処理法
主に地質図を作成するための処理方法を扱う。 - 粒度表の作成、堆積物の粒度分析
などを平成13年度の課題演習では予定している。
野外での実習は主に堆積岩を対象として行う。
- 滋賀県甲西町(鮮新世の地層を対象 4月後半)
- 大阪府岬町(白亜紀の地層を対象 5月前半)
- 三重県関町加太周辺(中新世の地層を対象 5月後半から6月前半)
- 千葉県清澄山(中新世の地層を対象 8月後半)
を予定している。(1)~(2)は日帰りでそれぞれ1回の実習、(3)は日帰りを3回程度、(4)は東大千葉演習林の宿泊施設に滞在しての実習となる。
それぞれの実習では最終的に課題を提出してもらうが、野外実習の課題提出がない場合、単位を出せない場合もあるので注意していただきたい。
地質調査法・課題演習E前期の大まかな流れ
- 平成12年度の地質調査法・課題演習E前期スケジュール
注意点
前期の課題演習は金曜2時限目の地質調査法とリンクして行う。
必ず両方とも履修するように。どちらか一方の履修は認めない。
また、野外実習は丸1日使って行うので、金曜日の1時限目、5時限目の他の授業の履修は避けるように。
また、金曜日が雨天の場合、野外実習は土曜日、または日曜日に延期して行う場合があるので、注意するように。
野外実習ではどんなに気をつけていても事故が発生することがある。
必ず、学生傷害保険に加入すること。加入していない 学生の実習への参加は認めない。
野外実習の風景
- 三重県関町加太周辺での野外実習
- 房総半島清澄山での野外実習
連絡先
平成13年度の課題演習は以下のメンバーで担当します。
質問等は遠慮なく教官に問い合わせてください。
※ 「@」を半角にしてください。
前田晴良 | maeda@kueps.kyoto-u.ac.jp | 山路 敦 | yamaji@kueps.kyoto-u.ac.jp | 増田富士雄 | masuda@kueps.kyoto-u.ac.jp |
神谷英利 | kamiya@kueps.kyoto-u.ac.jp | 松岡廣繁 | maca@kueps.kyoto-u.ac.jp | 酒井哲弥 | sake@kueps.kyoto-u.ac.jp |
前期の実習について、ホームページに掲載してほしいことがある方は酒井までメールにてお申し出ください。
課題演習E(後期)
後期は、主に室内で岩石やその構成鉱物の研究法および試料の年代測定方法についての入門的な演習および実習を行う。この実習で用いる岩石試料は、基本的には自分たちが野外で採集したものを使用する。例えば、2000年度には、この課題演習Eの前期の加太巡検で採集した花崗閃緑岩と野外巡検Ⅰの四国巡検で採集したエクロジャイト(高圧変成岩の一種)を使用した。これらの岩石試料から、顕微鏡用薄片と粉末をそれぞれ用意して、偏光顕微鏡観察・鉱物分離・電子線マイクロプローブ(EPMA)による鉱物の局所分析・蛍光X線(XRF)による全岩分析・粉末法X線回折(XRD)による相の同定・K-Ar法を用いた放射年代の決定といった課題の演習・実習を行う。
野外実習 | ||||
岩石試料 | ||||
薄片作製 | 粉砕・鉱物分離 | |||
鉱物分離 | ||||
偏光顕微鏡 | EPMA | XRF | XRD | K-Ar法 |
岩石記載 | 含有鉱物の組成分析 | 全岩組成の分析 | 鉱物相の同定 | 年代測定 |
X線回折法 | K-Ar法による年代測定 |
鉱物分離
岩石に含まれる鉱物を、比重・磁性・形状・耐薬品性などの違いを利用して濃集・分離する。具体的な手順は以下の通り(但し、試料と目的鉱物に応じて手順の前後・省略・変形があるので、ここでは花崗岩の標準的手順を示す)。
- ロックトリマー・ジョークラッシャー・ディスクミルを用いて岩石を分割・粉砕する。
- ふるいにかけて、粒径をそろえる(大きさは#40-100程度)。
- ブロモホルム・ジヨードメタンなどの重液を用いて比重分離する。
- 永久磁石(フェロフィルター・Cormax・Neomax)とアイソダイナミックセパレーターにより磁性分離する。
- 雲母類は板状であるのでタッピングにより分離する。
- ジルコン等は耐酸性が高いことからフッ酸・硝酸などで他鉱物を溶かすことにより分離する。
X線回折法
X線回折法は、物質にX線を照射したときに生ずる回折X線を検出して、その物質の相を同定したり、構造を決定したりする方法である。X線回折法には、試料の形態(単結晶であるのか多結晶体であるのか)や回折X線の検出器(写真に撮るのか計数管で測定するのか)などによって多彩な手法が考案されている。その中でも、実習で用いる「粉末X線回折ディフラクトメーター法」は、試料に多結晶体や粉末を用いて計数管によって回折X線を検出する手法で、一般に最も広く用いられている技法である。例えば2000年度の実習では、花崗閃緑岩から分離した比重の軽い鉱物群を測定し、石英・カリ長石・斜長石といった複数の鉱物相の混合であることを確認し、さらには斜長石の組成の推定を行った。また、エクロジャイトから分離したガーネットを測定し、その格子パラメーターを決定するといった演習も行った。
K-Ar法による年代測定
岩石・鉱物に含まれるK-40が、天然でゆっくり(半減期:1.25x10E9年)Ar-40へ電子捕獲壊変する事を用いて年代を測定する。具体的な手順は以下の通り(ここでは、Arの同位体分析のみ記述)。
- 鉱物分離により目的鉱物を抽出(または全岩試料を用い)する。
- 秤量し、高純度銅箔につつむ。
- ガス抽出装置に試料をセットした後、抵抗炉中にて1500度で溶融しガスを抽出する。
- ガス精製系において活性ガスを除去した後、VG3600アルゴン質量分析計に導入する。
- バックグラウンドとAr-36, -38, -40のピークを、ファラデーコレクターを用いて計11サイクル測定する。
- 同位体解析ソフトにより、ガス導入時の各核種の量と同位体比を求める。
- これらを、別途求めたK-40の含有量と共に計算式に代入し、試料の年代値を算出する。